ウワミズザクラ
山野に生える落葉高木(らくようこうぼく・一定の時期になると葉が落ちる背の高い木)。バラ科の木。
庭木や建材として用いるほか、横長の模様がある木の皮を使った品物を作ることもあります。葉は先のとがった卵形で、とげ状の鋸歯(きょし・のこぎりみたいな模様)があります。葉が出た後、4~5月に白い花が咲き、実は9月ごろ黒く熟します。漢字では上溝桜と書きます。この木は亀甲(きっこう)占い(亀のこうらを焼いてできたひびで、運勢を占う占い。古代中国や弥生時代の日本の政治で行われ、占いの結果で大事なことが決められていた。昔は特に神の存在が強く信じられ、政治にも強い影響があったのです)の時に亀のこうらを焼く燃料として使われ、木の溝を掘って火を起こしたことから上溝桜(うわみぞざくら)と呼ばれ、転じてウワミズザクラという名前になりました。
他のサクラも皮を染料に使ったり、花や実を食べたり、葉も桜餅を包むために使ったりしますが、このウワミズザクラもつぼみや未熟な実は塩漬けにして食べられます。わたしも他のサクラの花の塩漬け(この木のなりたての実は塩漬けにして食べ、山形地方では「あんにんご漬け」という料理として知られています)を食べたり、桜餅を包んだ葉を見たりしますが、ウワミズザクラのつぼみや実も一度食べてみたいものです。(食べる話が多いですね・・・)そして、枝の皮を少し傷つけると、杏仁豆腐のような香りがします。(枝や葉を少し傷つけると、香りとかその植物について新発見があると思います。ただし、傷つけるのは少しだけにしましょう)
また、花もソメイヨシノのようなぱっと開いた桃色のものもよいですが、ウワミズザクラの花も猫じゃらしのようで私は好きです。
このウワミズザクラを詠んだ歌が奈良時代の万葉集(まんようしゅう)という歌集にあります。山部赤人(やまのべのあかひと)という歌人で役人が詠んだもので、「あぢさはふ 妹(いも)が目離(か)れて しきたへの 枕もまかず 桜皮(かにわ)巻き 作れる舟に ま梶貫(ぬ)き 我が漕ぎ来れば 淡路の野島も過ぎ・・・以下略」です。妻と別れて、その手枕もせずに、桜皮(ウワミズザクラのこと。ここではウワミズザクラの皮のことか)を巻いて作った舟に梶を通して漕いでいくと、淡路の野島も過ぎ・・・という意味です。これは赤人が淡路島の近くの海を通ったときに作った歌です。仕事で家を離れても家族のことは忘れないという家族愛の歌です。
歌の中の「あぢさはふ」は目にかかる枕詞(まくらことば)です。枕詞とは、短歌など日本古来の歌の独特の表現方法で、その言葉自体に意味はないが、特定のものを表現するために使われるいわゆる飾り言葉です。あしひきの、といえば山、たらちねの、といえば母と言えばわかるでしょうか。