ナンバンギセル
1年生(いちねんせい・1年で芽が出て葉が出て、花が咲いて枯れる植物)のハマウツボ科の寄生植物。別名オモイグサ。
ススキやミョウガ、サトウキビなどの根に寄生し、時にはこれらから栄養分を吸い取って枯れさせることがあります。茎は地中にあり、ほとんど地上に出ず、赤褐色の葉が数枚つきます。7~9月に葉のわきから薄い紫色の花が横向きにつきます。
漢字では「南蛮煙管」と書き、昔南蛮人(なんばんじん・ポルトガル人の古い呼び名)の船員や商人が持っていたたばこのパイプに似ていることからこの名がつきました。今も特定の植物を自分の感じた特徴から自分だけの名をつけて呼んだことのある方もいるのではないでしょうか。それも植物のひとつの楽しみだろうし、もしかしたらその自分だけの名が将来、一般的な名になっているかもしれないと思うのは私だけでしょうか。 9月にこのナンバンギセルが里山の中に多く咲いていました。(2012年のことです。このウェブサイトの冒頭参照) この花の実物を見ると、改めてキセルに似てると思います。今、禁煙が叫ばれる時勢の中、キセルなるタバコを吸う道具が忘れ去られそうな気もしますが、ただこの花を見て昔はこの花に似たキセルなる道具でタバコを吸うという大人の楽しみがあった、というような文化史的な見方もできるかもしれません。
そして、このナンバンギセルを詠んだ短歌が万葉集(まんようしゅう)という奈良時代の歌集にあります。「道の辺(へ)の 尾花が下の 思ひ草 今更々(いまさらさら)に 何か思はむ」 この歌の作者は不明です。
道ばたに茂る尾花(ススキのこと)の下に生える思い草(ナンバンギセルのこと)のように、今またしおれて、何を一人また迷ったりするものか、という意味です。思い草はナンバンギセルのことで、この草を身につけると物を思うことができるとされていたのかもしれません。ただ、この歌は何か思いを断ち切りたいという強い思いが表れていると思います。それは恋愛のことか、仕事のことかはわかりませんが。
並滝では万葉集にある植物を学び、親しむ「万葉の植物講座」が行われていますが、これにちなんで私もつたないながら歌をひとつ。
野の中に ナンバンギセル 見た後で くわえ煙草(たばこ)の ふりをする秋